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死亡した患者の98%に抗生物質が投与されていたのですが、細菌による2次感染を起こしてしまうと、その後の予後に大きく影響することがわかります。
インフルエンザでも、インフルエンザに羅患した後に、肺炎球菌などによる2次感染が起きやすいことや、2次感染が起きてしまうと重症化しやすいことが示されており、インフルエンザが細菌の感染を助長するような様々なメカニズムが明らかになっています。
それでは、その反対に、細菌の存在がインフルエンザウイルスの感染を助長すのでしょうか?
感染した人の細胞内で増殖したインフルエンザウイルスが細胞外に放出されて拡散する際に、ノイラミニダーゼ(NA)という糖たんぱくが必要ですが、ある研究では、人の口腔内や気道に存在する細菌の7菌種(特に肺炎球菌)にNAを産生する性質があり、この細菌由来のNAがインフルエンザウイルスの増殖を助けていることが明らかになっています。(ちなみに、このNAを阻害する薬剤が、タミフルやリレンザなどのNA阻害剤です。)
さらに、インフルエンザウイルスが人の細胞に侵入する際に、ヘマグルチニン(HA)という糖たんぱくが必要なのですが、口腔内や気道に存在するブドウ球菌や歯周病菌には、このHAを活性化するプロテアーゼという酵素を産生するものがあり、インフルエンザウイルスの感染を助けている可能性が指摘されています。
実際日本の臨床研究をみてみると、高齢者に対して、歯科衛生士による週1回の口腔ケアを実施すると、セルフケアを実施した高齢者に比べて、半年の期間中にインフルエンザウイルスの発症率が10分の1になったという驚くべき研究結果が報告されています。そして、口腔ケアを行った群では、唾液中の細菌数、唾液中のNA活性、唾液中のトリプシンというプロテアーゼ活性の低下が認められたのです。
実は、新型コロナウイルスはトリプシン様プロテアーゼを使って人の細胞に侵入することが分かっているのですが、主要な歯周病菌の一つであるジンジバリス菌は、トリプシン様プロテアーゼを産生・分泌することが明らかとなっています。
さらに、3月18日、東京大学の研究チームによって、ナファモスタットという膵炎の治療を行う薬剤に、新型コロナウイルスの感染を阻害する可能性があることが発表されました。ナファモスタットというのは、まさにこのプロテアーゼを阻害する薬剤のことなのです。
口腔内の歯周病菌を始めとした細菌が、新型コロナウイルスの感染を助長しているかどうかいまだに明らかにされていませんが、様々な事実を積み重ねていくと、歯周病対策による口腔内の衛生が新型コロナウイルスの感染防御に役立つ可能性が高いと考えられます。
さらに、忘れてはならないのが、唾液には、運動と免疫力で触れた分泌型IgA抗体や、ラクトフェリン、リゾチームなど抗ウイルス作用を持ったたんぱく質が含まれており、感染防御の最前線の働きを担っていることです。
医療法人 OMSB 中垣歯科医院
中垣 直毅